歴史と人物に学ぶ NSP経営躍進塾資料より 「会社再建王 坪内壽夫翁 ㉗」著:野見山 登

東邦相互銀行の債権と銀行経営 ②
さらに『銀行にお金を借りに行くと、銀行はなかなか貸さん。融資をOKしてからも、実際にお金が出るまでに1ヶ月以上かかるんですなぁ~。稟議書に課長から部長、役員など10数名位のハンコを押すようになっとる。それが出張に行ったりしていて、なかなかそろわん。時間がかかる。借りるほうは、この待つのが辛い。東邦相互銀行なんか、庶民の銀行じゃから、人気ようせにゃいかんからね。銀行の今までのしきたりを壊さないかんと思った。じゃから、今日申し込みがあったら、明日お金を貸し出せと言うたんじゃ。10人もハンコ押さずに。2人か3人でいいじゃないかと言った。ところが、前からいた連中は、銀行は連帯主義じゃから、ハンコを役員は皆な押さんといかんとか言う。ワシはそんなもんどうでもいい、担当者に権限を持たすから、役員は1人でよい、と言って専任の役員は1人にした』と、言われた。「それまで何人いたんですか?」とお聞きすると『役員だけで15人、課長も10人位おった。それを課長1人と専務1人として、融資の申し込みがあってから2日間で、本部決済するから早いんよ。借りるほうも喜んだな』ところが大蔵省から『とんでもない、銀行は総合牽制しないと困る』と、どういう意味ですかお尋ねすると『相互牽制組織。1人の人間が使い込んだら、他の人間がわかるような仕組みでな。ところがワシは、習慣を壊して、そういう組織にしとらん。じゃから大蔵省は反対じゃという。東邦相互銀行の場合、潰れかけた銀行だから、今一番困るのは、審査に時間がかかりすぎて、お客様が逃げる。早く出してやればお得意先が増えるから、やらせてくれと、大蔵省に言うたんじゃ。すると大蔵省は焦げ付きができたら、ワシに責任持ちますかとも言いました。責任持つからには弁償すると言ったんじゃが。大蔵省はカチンときたらしいんじゃ、弁済すると言ったって銀行の不良債権は大きいぞと言うとった。そういう話をしとるとたんに大きいのが出た。27億円貸していた鹿児島の照国海運が更生会社になってしもうた。大蔵省がどうするかと言う。』『約束したんだからしょうがない。更生会社の社債を売ったらいかんという法律はない。それで鹿児島の裁判所に東邦相互銀行が照国海運に対して持っている27億円もの更生会社の債権を買いに行った。そしたら判事さんがビックリして、27億円もの更生会社の債権を現金で買う例がないと・・・。ワシは大蔵省に口で保証したんじゃから、銀行に迷惑かけん為に買いに来たと言ったら、口で保証したというのも変わった人ですねと言われたよ。照国海運は1千億円以上の負債であったから、27億円肩代わりされても、照国海運そのものは、再建できなんだが、東邦相互銀行のためにやったんよ。年に1億利益を出すのにキューキューしとった相互銀行が、一度に27億円も引っかかったら破産ですわ。それで銀行が助かりゃいい。責任取るいうて、本当に弁済したもんじゃから、大蔵省も日銀もたまげおったわい・・・』さらに言われたことは、『銀行の建物に金をかけないで金利を安く貸し出しお客様に喜ばれ、お客様が、ぎょうさん増えた』と言われ、事例をあげてお話をして下さいました。台風が来た時、瓦が飛んで支店が傾いたことがあった。そうすると、支店長が来て、支店が傾いてどうしょうもない、このままでは扱い高が増えんと言う。それでワシは『見に行ってみようと見に行った。そこで支店長に地元の名土の方々を招待させ、ご馳走を差し上げながら、ワシは、貧しい町で学校の校舎が台風で傾いた時、つつかえ棒をたてて、そこで勉強したことがある。ところがこの支店長は、新しい銀行を建ててくれんと取扱い高が増えんという。ワシはつつかえ棒でいきたい、そして金利を安うしたい。皆さん方、金利が安いのがいいか。支店長の気分がいいのがいいか、どちらがいいですかと問うた。そうしたら地元の有志は、冗談いうな建物は今のままで結構や、金利を安うしてくれと言う。それじゃ貸し出しの金利を安うするかわりに預金の方も増やして下さいとやったんじゃ、そうしたら倍になったんよ』預金がですか?と尋ねると『そうじゃが、庶民の銀行である東邦相互銀行が、宮殿と間違えるような建物を建てても意味がない。それよりも金利を安うした方がいいに決まっておる。じゃからワシは、建物の修理はするが、新しく建てるようなことはしない。来島ドックの事務所も小学校の廃校の後でボロボロじゃ。造船の工員だけ屋外でやらせて、事務所の連中だけ冷暖房つきじゃいかん。我慢させると、工員も喜ぶし、能率も上がった』と言われていた。私もサラリーマン時代に家具の大型専門店のチェーン店で体験したが、本社(八幡西区)は、大正時代の建物で雨漏れはするし、2階の社長室や会議室は床が傾いていた。ある時、出店計画を発表した幹部会議の席で役員の一人が、『出店もいいが、本社の社屋もいい加減で建て替えたら』と言われたことがある。私は『小売業は金を稼がない本社社屋はどうでもいい。金を稼ぐ店舗に投資する』と、反論し怨まれたことがある。私は坪内翁の東邦相互銀行のお話を拝聴し、あらためて自分の考え方が正しかったと再認識した。業種業態によっても異なるが、直接お金を稼ぐ部門には投資をおしまずに間接部門には、多少の我慢をして頂く気持ちが大切ではないでしょうか。

歴史と人物に学ぶほど
生きた学問はない!

安岡正篤先生の言葉

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